女性アスリートには、運動量に見合わないエネルギー摂取によって、体に必要で「利用可能なエネルギー不足」へなりがちです。エネルギー量が足りないと、長い間生理が止まってしまう「無月経」となり、これによって骨がもろくなる「骨粗鬆症」が、疲労骨折を起こしやすくします。これらは女性アスリートの三主徴(さんしゅちょう)といわれており、女性アスリートの健康を脅かす問題として、世界的にも、よく知られるようになりました。
上記問題に対応するため、北海道でスポーツに親しむ選手・アスリートに、現場を通じた支援を行うために組織されたのが「北海道女性アスリート医科学支援ネットワーク」です。
来年(2026年)創基150周年を迎える北海道大学は、創基150周年の3つのテーマの一つに「Diversity(多様性にひらかれた教育・研究の場)」を掲げており、大学としても上記課題に取り組むとともに、女性学生の課外活動を支援する観点から、2025年9月27日(土)開催のホームカミングデー2025の機会に、女性アスリートの健康問題に関与する様々な立場の方々が集うイベントを上記ネットワークの協力の下に実施しました。

第1部は、招へいした各講師が講義を行いました。
【月経とスポーツの関係】
講師:小林範子氏(北海道大学病院婦人科講師/医師)
小林氏は、女性アスリートの三主徴に関し、必要エネルギー不足が女性ホルモンの減少を招き、そして無月経となり、それがどのように体に影響があるかを、臨床例により具体的に説明されました。

【疲労骨折しやすい身体】
講師:後藤佳子氏(北海道大学病院スポーツ医学診療センター・医師/新札幌整形外科病院・医師)
後藤氏は、エネルギー不足を基盤とする月経異常が骨折のリスクを高めることを臨床例やデータで示し、20才前の若年時に骨量を確保することがライフステージ全体の健康寿命に直結することを説明されました。
また、広域である北海道の特性にオンライン相談で対応している実例を説明されました。

【ケガや病気でくすりを使う】
講師:笠師久美子氏(北海道医療大学・特任教授/薬剤師)
笠師氏は、東京オリンピックで女性アスリート外来が初めておかれ、無料で診療を行い、診療を初めて受ける女性アスリートがいた事例を紹介された後、クスリやサプリメントを使用するには自分の身体を知ることが大事であり、ドーピング検査に対応する場合も同様であることが説明されました。
また、貧血への対応の事例から、原因により対応するクスリやサプリメントのリスク、またアスリートの栄養状態により薬効が異なることを説明されました。

【コンディションを整える】
講師:寒川美奈氏(北海道大学大学院保健科学研究院・教授/理学療法士,日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)
寒川氏は、女性は月経や女性ホルモンによって「からだ」と「こころ」の変化が起こりやすく、自分のコンディションを普段から把握していることが大切であり、毎日のチェックや練習日誌を付けることが大事であること、最近は良いアプリケーションがあること、指導者とのコミュニケーションにコンディショニング管理アプリは有効であること等を紹介されました。

第2部は、参加者と質疑応答を行いました。
最初に、「怪我をせずに、長い間現役でスポーツを続けるコツを教えてください。」との参加者から事前の質問に対し、各講師からそれぞれの専門分野に応じた回答がありました。講師からは、「自分の体質を知って、それに合うコンディショニングを取ること。」「身体の柔軟度に応じたストレッチングをすること。」「自分に合うスポーツを見つけて、無理せず行うこと。」「更年期を含む女性問題に留意し、工夫しながら自分に一番合う方法で楽しむこと。」等のアドバイスがありました。
会場からは、北海道女性アスリート医科学支援ネットワークが取り組むオンライン相談に関する質問があり、選手を支える周りの対応等について意見交換が行われました。
また、中学生まで新体操に取り組んでいた学生から、10年前と現在における女性アスリートの健康問題に関する関係者の認識について質問があり、講師から予防の概念は浸透したが、問題への対応についてはこれからであることが説明されました。


最後にMCを務めた寒川氏から、女性アスリートを支える側のコーチや医療関係者は圧倒的に男性が多く、女性アスリートの健康問題に関して性差を超え互いに理解し合うことが重要であり、様々な立場の方が一緒に語り合っていくことが、選手を支えることに繋がると考えるので、今日は本当に良い機会となったと謝辞があり、イベントは終了しました。

(取材協力:広報・社会連携本部 広報・コミュニケーション部門)
(文責:総務企画部総務課創基150周年記念事業準備事務室)
参考:
北海道女性アスリート医科学支援ネットワーク
https://fe-as.pd-r.org/
北海道大学病院スポーツ医療センター/女性アスリート・スポーツ外来
https://hokudai-med-sports-center.org/woman.html
ドーピング禁止物質を調べる
https://www.globaldro.com/JP/search
アンチ・ドーピングについて知る
https://www.realchampion.jp/
治療で禁止物質を使う手続き
https://www.realchampion.jp/what/health/